ベルリンのグリーンテック企業訪問ツアーに参加したレポ #ABS2023 #AsiaBerlinSummit2023
Guten Tag, ベルリンの伊藤です。
今週の初め、AsiaBerlin Summit 2023 に参加しました。
3日目水曜の午前は、今回の3つのメインテーマに分かれて、ベルリンの企業を訪問できる事前予約制のバスツアーがありました。
- Mobility & Logistics (自動車&物流)
- Energy transition & Green Tech (エネルギー変換&グリーンテック)
- AI
やはりAIは熱いトピックにつき早々に埋まってしまったので、今回私はグリーンテックのツアーに参加しました。
ベルリンがスタートアップ都市になるまで
朝9時に赤の市庁舎の前に集合し、大型バスで30名ほどの参加者でツアーが始まりました。
最初の企業訪問までの道のりでベルリンの企業背景を理解するために、まずはベルリンの歴史が語られました…
皆さんご存知の通り、1989年に至るまでベルリンの壁によって都市は東西に分断されていました。
壁に囲まれ陸の孤島だった西ベルリンでは、裕福な人たちが不便さからさっさと抜け出していきました。そこでドイツ政府は人を集めるために、西ベルリンには徴兵制撤廃など様々なインセンティブを付与しました。
これにより、他の都市にない独特な文化が形成されていきました。
こうした影響から、人口では圧倒的に他都市に勝るものの、ベルリンはハンブルクやミュンヘンに比べたら経済的に遅れた貧乏な都市といえます。
壁が崩壊してからは、「Berlin poor, but sexy」というスローガンを打ち出し、また戦争の背景で既にアメリカ・ロシア・フランスなど国際色があったことから、国内外から若くてお金のない人々が集まる都市になりました。
1990年代には未だ都市の3/4が改修されておらずグレーでボロボロの街並みの中で、ベルリンは若い人たちとクリエイティブな可能性を秘めていました。
そこへ、1994年のドイツテレコムの民営化/株式公開によって人々の投資への関心が高まったこと、2001年の世界的不況で金銭的余裕がなくなったことから、投資先としてベルリンが国際的に注目を集めていきました。
2007年ベンチャーキャピタルである Rocket Internet が設立され、ベルリンのスタートアップ企業を次々にサポートしたことも後押しし、今では有名な Get Your Guide、Gorilla、TIER、等々のスタートアップがここ数年で続々と成功し始めました。
こうして「ヨーロッパのシリコンバレー」「スタートアップのハブ都市」となったベルリンは、今では相場価格の物件を探すのが難しいほどの人気都市です。
しかしそれでも、まだまだ他の主要都市より生活コストが安いとされ、スタートアップ人材が暮らしを始めやすいようコワーキング&コリビングスペースが充実しています。
EUREF Campus
前置きが長くなりましたが、バスは一つ目の訪問地である EUREF Campus に到着しました。
EUREF Campus とは
EUREFは「European Energy Forum」の略で、気候変動に左右されない、省資源でインテリジェントな明日の都市のモデル地区という理念を掲げています。 2008年にこの地を取得して以来、EUREF AGは、ガスメーターを中心としたシティクォーターを、エネルギー転換のための真の実験場として発展させてきました。(EUREF-Campus - EUREF AG より / DeepL 翻訳)
旧シェーネベルク・ガス工場を中心として、まるで大学のようにいくつもの建物で構成される「キャンパス」は、その全体がグリーンテックのための研究ラボとして使われています。
公的組織のような性質ですが、実は民間企業で、電気自動車、再生エネルギー等の各分野ごとに、大企業およびスタートアップに施設を借用しています。また大学院生の研究プログラムも設けており、各社と学生の入り混じった交流を促進するためにコミュニティイベント、共用レストラン、プール等の施設もあり、グリーンテック業界のエコシステムとしての役割も果たしています。
キャンパスツアー
ここからはキャンパス内の具体的な研究例の紹介です。
建物のファサードの緑のもの、これは藻の繁殖をしています。
少し前に食用コオロギが話題になりましたが、藻類も多大な栄養素を含みながら効率的に生産可能な食品として注目されているようです。
MINT Engineering が開発したこのバイオリアクターはファサードを利用して太陽光を集め、食用藻類を育てながら、集めた熱をエネルギーや温水として供給できる仕組みになっています。
◆ 参考:Algen-Fassadenreaktor - EUREF Campus
次は、Shell のサポートで Ubitricity が開発した、電灯に統合された電気自動車の充電スタンド。
電気自動車が増える一方で充電スタンドは不足しており、設置に大きな場所を取ることが要因の一つです。そこで、全く新しい場所ではなく、電灯という既にある電流を活用しようというコンセプトです。
ガイドの方が手を当てている部分に充電コンセントがあり、支払いは QR コードを読み込みアプリで行います。
ただし、ベルリンの電灯のほとんどは戦前からの古すぎる設計により、この仕組みが導入できないのが課題とのことです。(使うと区画一体の電灯が消えちゃうとか、、
ドイツでは暖房と温水にセントラルヒーティングを使うのが主です。
GASAG がその熱ポンプを並列にすることで生産効率が上がるではないか、ということでこのキャンパスで導入して検証し、問題なく成果を上げたことで市場に出すことができた一例だそうです。
また、Geo-En と共同で、キャンパスの人数・敷地、天気、各電力価格などの要素から最適な熱生産を予測するためのAIを独自に開発しています。
写真左が初代の端末、右が小さくなった第2世代です。
こちらは初代の画面です。熱生産の概要と書いてあり右上が先ほどの4つのヒートポンプを示していると思われます…
◆ 参考:Dezentrales Energiekonzept auf dem Euref-Campus in Berlin
これらのシステムにより、 EUREFキャンパスは CO2 ニュートラルで、ドイツ政府が2045年達成を掲げている気候目標をすでに2014年に達成しています。
DB の取り組み
次に、ドイツの国鉄であるドイツ鉄道 (Deutsche Bahn; DB) から活動紹介のプレゼンがありました。
MaaS (Mobility as a Service) アプリ開発
- 利用者に快適なサービスを届け、利用者を増やすため
- アプリ内で Google Maps での検索、電車チケットの予約/購入、あるいは Careen や Uber の配車サーピスでのタクシー予約まで
- 移動のうちの電車、タクシー、自転車などの割合を集計
- 電車利用で(?)エコポイントが溜まり、DUNKIN’ DONUTSのドーナツと交換
- 走行距離で他のユーザとランキング比較
公式のチケット予約アプリに、Google Maps、配車アプリ、万歩計アプリ等がすべてシームレスに統合されたようなデザインでした。
4つのゼロカーボン技術
- 再生産エネルギーを使ったCO2ニュートラルな4つのソリューションがある(下図)
- 用途によって最適解がある
- 電気自動車がメジャーだが、電車界では水素発電が最も使いやすい
- SIEMENSと提携し、電車における水素発電を開発しており、今後はディーゼル車両を減らしていきたい
◆ 参考:H2goesRail: Hydrogen at Deutschen Bahn
未来の乗り物 Hyperloop
- Hyperloop 技術は、真空を使って摩擦と空気抵抗がなく最大のスピードを提供
- 高速列車よりも圧倒的に少ないエネルギー消費で、飛行機と同じスピードを実現
- チューブに設置した太陽光パネルからのエネルギー
- 導入はどんなに早くても10年はかかるであろう
Enpal
再びバスに乗り、今度は Ostbahnhof 駅すぐ裏にある Enpal 社にやって来ました。
これまで、ソーラーシステムの購入は複雑で面倒なものでした。エンパルでは、太陽光発電システムをオールマイティな料金でレンタルしたり、フレキシブルに購入することが可能です。希望すれば、蓄電池やウォールボックス、グリーン電力料金プランも利用できます。今すぐ電力会社から独立し、電気代を削減しましょう!(ウェブサイトより / DeepL 翻訳)
太陽光発電のシステムを提供する Enpal 社は2017年に設立され、現在は月200人採用するほどの成長中のスタートアップです。
Enpal のビジネス
- Enpal のセールスは完全にオンラインで、顧客獲得のためのセールス出張はしない
- 最初の大きな導入は卸売会社
- 2017年設立、そしてパンデミック後は、中国からハードウェアを調達
- ソーラーシステムを導入するための技能工が不足しているため、自社でトレーニングセンターを設立
- 太陽光パネルだけでなく、蓄電システム、充電ステーション、そしてスマートメーターとアプリの包括的なサービスを、柔軟な料金体制で提供(貸出・購入)
アプリでバーチャル発電所
- エネルギーの流れを可視化
- アプリで充電を管理
- 発電した電力の電力取引
- いつでも柔軟に変えられる料金プラン
新たなサービス - 熱ポンプ
- 新たなサービスとして空気熱源ヒートポンプを導入
- BOSCH、DAIKINとそれぞれパートナーシップを結び、各社のヒートポンプを提供
課題
- 柔軟なローン払いの提供と、収益性
- ソーラーシステムを導入できる技術者不足
- 作業の90%は自社トレーニングのみでOK
- 残り10%は資格(マイスター; 6年などの訓練が必要)が必要
おわりに
いかがでしたでしょうか?
約4時間のツアーで、施設・企業訪問をしながらとても濃い内容が聞けておもしろかったです。
また、ベルリンのスタートアップシーンが生み出された背景はなんとなく知っていましたが、経済的な背景などから詳しい説明が聞けたのも興味深かったです。
その中で話題に上がった、クレーンバレエの動画です。
ベルリンのド中心地、西との境の東ベルリンに位置した Potsdamer Platz にて、1996年に壁崩壊後の建設作業があまりに多く大量にクレーンがあったことから、それらを活用してクレーンダンスが披露されました。ちゃんとドイツ国立オペラ劇場のスター指揮者が指揮しています!
ちなみに、当時ここに投資した大企業の一つが我らがソニー社で、屋根に富士山を模した Sony Center という施設は今でも健在です!
ベルリンには意外とこうした日本の繋がりがあるんですね。
以上、AsiaBerlin Summit 2023 のレポートでした!